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東京家庭裁判所 昭和39年(少イ)17号 判決

被告人 海老原光久

主文

被告人を懲役壱年に処する。

但し本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は東京都新宿区百人町二丁目一四六番地においておみくじ業を営むかたわら、「立花」なる名称の同性愛クラブを主宰し、同性愛の異常性欲者たる男子を募り、他方その相手となるべき少年を集めてこれにひきあわせることによつて同性愛の異常性欲者にその異常性欲の満足を得る機会を与えていたものであるところ、

第一、昭和三八年八月上旬頃から昭和三九年二月上旬頃までの間数回に亘り少○稔(昭和二一年二月一六日生)を同性愛の異常性欲者である平田正雄ほか数名の男子にひきあわせ新宿区百人町二丁目二〇二番地旅館「新大久保ホテル」ほか数カ所において小○稔をして平田正雄等の同性愛的異常性欲の性欲満足の対象として手淫その他の異常性行為をなさしめ、

第二、同年一月二六日頃から同年六月上旬頃までの間数回に亘り、外○晃(昭和二二年一月一日生)を同性愛の異常性欲者である山田武ほか数名の男子にひきあわせ新宿区百人町三丁目二八五番地旅館「きよ」ほか数カ所において外○晃をして山田武等の同性愛的異常性欲の性欲満足の対象として手淫その他の異常性行為をなさしめ、

第三、同年二月中旬頃から同年六月上旬頃までの間数回に亘り○川○則(昭和二三年一月一日生)を同性愛の異常性欲者である鈴木浩三ほか数名の男子にひきあわせ東京都北区滝野川六丁目三番地鈴木浩三方居室ほか数カ所において○川○則をして鈴木浩三等の同性愛的異常性欲の性欲満足の対象として手淫その他の異常性行為をなさしめ、

第四、同年五月中旬頃数回に亘り、○加○夫(昭和二一年六月二三日生)を同性愛の異常性欲者である松本勇ほか一名の男子にひきあわせ前記旅館「新大久保」ほか一カ所において○加○夫をして松本勇等の同性愛的異常性欲の性欲満足の対象として手淫その他の異常性欲行為をなさしめ、

もつてそれぞれ児童に淫行をさせたものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実につき

一、昭和三九年八月五日付司法警察員作成の捜査報告書(添付の昭和三九年八月四日付スポーツ毎夕新聞とも)

一、押収にかかる泉会会則二二枚(昭和三九年押第二九九八号の六)および文通会員則六八枚(同号証の七)

一、海老原チイの司法警察員に対する昭和三八年二月一八日付および昭和三九年八月二四日付各供述調書

一、西森幸子の司法警察員に対する昭和三九年八月二四日付供述調書

判示第一の事実につき

一、小○稔の司法警察員に対する昭和三九年八月二八日付、同年九月二日付および同月三日付各供述調書

一、小○稔の検察官に対する昭和三九年九月五日付供述調書

一、平田正雄の司法警察員に対する昭和三九年九月一日付供述調書

一、平田正雄の検察官に対する昭和三九年九月一日付供述調書

一、関正治の司法警察員に対する昭和三九年九月三日付供述調書二通

一、茨城県常陸太田市長作成にかかる小○稔の戸籍謄本

判示第二の事実につき

一、外○晃の司法警察員に対する昭和三九年八月二八日付、同年九月二日付(二通)各供述調書

一、外○晃の検察官に対する昭和三九年九月五日付供述調書

一、山田武の司法警察員に対する昭和三九年九月二日付供述調書

一、山田武の検察官に対する昭和三九年九月五日付供述調書

一、上田勝次の司法警察員に対する昭和三九年九月二日付供述調書

一、上田勝次の検察官に対する昭和三九年九月五日付供述調書

一、銭谷功の司法警察員に対する昭和三九年九月二日付供述調書

一、内田昭雄の司法警察員に対する昭和三九年九月二日付供述調書

一、内田昭雄の検察官に対する昭和三九年九月二日付供述調書

一、宮崎県日南市長作成にかかる外○晃の戸籍謄本

判示第三の事実につき

一、○川○則の司法警察員に対する昭和三九年八月一二日付および同月二七日付各供述調書

一、○川○則の検察官に対する昭和三九年八月二六日付および同年九月一日付各供述調書

一、鈴木浩三の司法警察員に対する昭和三九年八月一七日付供述調書

一、鈴木浩三の検察官に対する昭和三九年九月一日付供述調書

一、白鳥英雄の司法警察員に対する昭和三九年八月二六日付供述調書

一、白鳥英雄の検察官に対する昭和三九年九月一日付供述調書

一、松尾貞勝の司法警察員に対する昭和三九年八月二六日付供述調書

一、島田精一の司法警察員に対する昭和三九年八月二六日付供述調書

一、名古屋市千種区長作成にかかる○川○則の戸籍謄本

判示第四の事実につき

一、○加○夫の司法警察員に対する昭和三九年八月四日付および同月二七日付各供述調書

一、○加○夫の検察官に対する昭和三九年八月二七日付供述調書

一、松本勇の司法警察員に対する昭和三九年八月二六日付供述調書

一、松本勇の検察官に対する昭和三九年九月一日付供述調書

一、東京都葛飾区長作成にかかる○加○夫の戸籍謄本

判示事実全般につき

一、被告人の司法警察員に対する昭和三九年八月二〇日付、同月二四日付、同月二五日付、同月二七日付、同年九月三日付(二通)各供述調書

一、被告人の検察官に対する昭和三九年八月三一日付および同年九月五日付各供述調書

(法令の適用)

被告人の判示各所為(四名の児童にそれぞれ淫行をさせた四個の行為)はいずれも児童福祉法第三四条第一項第六号第六〇条第一項に該当するところ(同法第三四条第一項第六号の淫行とは男女間の性交に限らず同性愛などの異常性欲を満足させる行為を含みひろく道徳的に非難されるような性行為を指称するものと解するのが相当である。蓋し児童福祉法第三四条第一項第六号が児童に淫行をさせることを禁止しているのは、児童が心身ともに健かに育成されるためには「性」に関しても道徳的に正しく身体的にも健全な知識、習慣を身につけさせることが必要であつて、男女間の不道徳な性交渉たとえば売春や性倒錯と考えられる異常性行為たとえば同性愛などは児童が正しい健全な性知識を身につけ身心ともに健かに育成されることを妨げるものであるから、児童にそのような性行為をさせることを禁止する必要があるからであつて、この立法目的に鑑みるときは、「淫行」なる文言を、それが言語として男女間の性交のみを意味するものであれば格別そうでない以上これを男女間の不道徳な性交渉に限る必要はないからである。)、いずれも所定刑中懲役刑を選択して処断すべく、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文第一〇条に則り犯情の最も重い○川○則に淫行をさせた罪について定めた刑に併合罪の加重をなした刑期範囲内で被告人を懲役壱年に処し、なお犯罪の情状に憫諒すべきものありと認め同法第二五条第一項を適用し、本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予することとする。

児童福祉法第六〇条第三項において児童を使用する者に児童の年齢確認の義務を負わせている所以のものは、同法第三四条による児童の保護が十分にその実を挙げることができるようにするためであるから、児童を使用する者の意義もその趣旨に沿つて理解されなければならない。しかるときは同法第六〇条第三項の児童を使用する者とは、児童と雇傭その他の契約関係にあるものに限ることなく児童との身分的または組織的関係においてひろく当該児童の行為を利用し得る立場にあるものを指すものと解すべきである。しかるときは判示の事実関係において被告人は判示各児童を使用する者の立場にあつたものである。被告人は本件各児童の年齢を知らなかつたことの故をもつて本件処罰を免れることはできない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 中田早苗)

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